ダメ、ぜったい


新宿駅東口改札で人待ち。
改札が見渡せるショップの前でぼーっと呆けていると、隣にオジサンが。
ポケットがいくつもあるベストにまん丸眼鏡。サイドはすっきりと刈り上げており、
白いシャツは黒いベルトにしっかりインされていた。
気味の悪い人だなーと目の端で眺めていると、しきりに携帯を気にしているのが分かった。
さては出会い系か。ははーん。
と私は呆け直した。彼に待ち人が来るはずないと思ったからだ。
次の瞬間、彼に20そこそこの女の子が現れた。
七部袖のワンピースを着たどこにでもいそうな子。
視線の焦点を合わせるでもなく声をかける様が、いかにも初対面だった。
「こんにちは、お願いします」
と言っただろうか。女は折畳んだ五千円札を差し出した。
受け取る手と引き換えに黒いカードケースを手渡す。
金を確認すると、オジサンは視線も交えずまっすぐ改札の中に消えた。
こんなにもたくさんの人が行き交っているのに。気持ち悪い。
女は私の視線に気付いたようだが、恥らうでも悪びれるでもなく地下街へと立ち去った。
カードケースの中身は何だったんだろう。
変なもの見ちゃったよ全く。