小玉さんのラムネ

バイト先のオフィスが移転した。
南新宿から西新宿にだ。夜逃げじゃねーのか?と疑いたくなる。
いつも使ってた小田急南新宿駅とお別れになってしまったので少し寂しい。
地上七階の窓から見渡せる都庁が好きだったのに…。
口寂しくもなってきたので、ガムが無いかとバッグを漁る。
指先に触れたのは小さな包み。(写真)
ホチキスの小玉久仁子さんから先週もらったメキシコ土産だ。
こないだの俺の芝居で令嬢役やってた人ですよ。
いつものように割合い無愛想に手渡されたコレ。しかもコレ一個。
手渡しながら「メキシコで風邪菌もらってきたぁ」と鼻をすする小玉さん。
何すかコレと俺が聞き返すと「ラムネ」とだけ面倒臭そうに答えた。
いつもの彼女の感じなのに、その仕草が何だか無性に作為的に見えてきて。
実はこれがトリカブトか何かで…俺は計画的に殺されるのか!と想像してみた。
最早、推理に近い。んな事あるわけないかと思いつつ、
正直こんな得体の知れん物ぜってぇ食わねぇと思い、バッグに仕舞った。
それが今…ひょっこり出てきた。口寂しさには勝てない。
だが袋を開けてみても、いかがわしさは拭えない。
メキシコの風邪菌とかゆークダリが妙に怪しい。
小玉さんが俺を殺す?…ふん、何のために。手口が不完全犯罪過ぎるんだよ!
だが、ぶっちゃけちょっと怖い。
一分くらい悩んで、もしもの時のための写真撮って(小玉さんが犯人だと示すため)
食った。どうせラムネだし、と腹をくくって。
…だが俺は食った瞬間吐き出した!明らかにラムネではなかった!
『でっかいフリスク』だった…こ、こだまぁぁぁ。ビビらせやがってぇぇ。